その時、奇跡が起こった。
周囲の音がなくなったのだ。
と同時に、
目の前に、現れたグレイの車。
うん。白馬の王子様なんかじゃなくてね、グレイのミライース。
そのボンネットに一人の青年が立っている。
「うん。ボクの能力だけ、今まで説明がないことに気づいてた読者は、何人いたのかな?」
そこにいたのは、、ユウキ。
ミライースの運転席には、フミカズ。
しかも、時間が止まっている?
「ボクの『ユウキワールド』は、ムカイヤチさん公認の能力ですから。
ほら、テツフミ、今のうちに、コウイチちゃんにガソリンを!」
フミカズが、携行缶とポンプを持ってくる。
「あのー、ガソリンを携行缶に詰めるのは、犯罪では・・・?」
確か、さっきテツフミ自身が「多少の犯罪は認める」って言ってたくせに。
18リットル、完璧に入れた時点で、ボクの意識が戻ってきた。
「事情の説明はあとで。ここは逃げてください!」
「わ、わかった」
ユウキがゆっくり、柏手を叩く。
時間を再び動かすための一本締めだ。
瞬間、時間の感覚も戻り、グレイのミライースは消えていた。
ふっふっふ。元気100%の今のボクに怖いものはない。
蘇る首都高速のカーチェイス。
魂が昂る昂る。
その時ボクは、車とは思えない超・超高速の勢いで、イタリアのパトカー十数台を一気に振り切ったのだった。
とあるシティホテル前。20歳のイケメンが、ヒロミさんと感動の再会を果たしていた。
あー、あのイケメンさんが息子さんかぁ。
「まぁ、ビザの関係で、今の時点、親子で帰国ってわけには行かないけどね」
とテツフミ。
ヨウコも笑顔で、iPadを抱えている。
「で、今回、途中でやってきたあの2人は?」
「実は、フミカズから頼まれて、私がこっそりLINEで実況してました」とヨウコ。「たまたま、私たち5人のLINEグループもありましたし」
「でも、どうやってテレポートしたのかな?」
「リョウコさんが、一時的にフミカズのミライースに能力を吹き込んだみたいですね。急場だったから、コーイチちゃんほど完璧には仕上がらなかったらしいですが」
「でも、場所まではわからないはず、、、」
「私のiPadのGPSを、「iPhoneを探す」調べてたんですよ。ほら」
「で、ユウキくんが時間を止めて、ガソリンを届けてくれた、と」
もつべきものは、悪友というか、仲間というか。
テツフミは、大きなため息をつく。
僕らのリカバリーストーリーが、またひとつ増えたらしい。
「さあ。コーイチちゃん。出発だ!」
おう。行こう!
コーイチちゃんは、また、走る。
世界をまたに、時に、長崎自動車道を、ノーブレーキで振り切って。
<完>
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