5.年明けの奇跡

 その時、奇跡が起こった。

 周囲の音がなくなったのだ。

 と同時に、

 目の前に、現れたグレイの車。

 うん。白馬の王子様なんかじゃなくてね、グレイのミライース。

 そのボンネットに一人の青年が立っている。

「うん。ボクの能力だけ、今まで説明がないことに気づいてた読者は、何人いたのかな?」

 そこにいたのは、、ユウキ。

 ミライースの運転席には、フミカズ。

 しかも、時間が止まっている?

「ボクの『ユウキワールド』は、ムカイヤチさん公認の能力ですから。

 ほら、テツフミ、今のうちに、コウイチちゃんにガソリンを!」

 フミカズが、携行缶とポンプを持ってくる。

「あのー、ガソリンを携行缶に詰めるのは、犯罪では・・・?」

 確か、さっきテツフミ自身が「多少の犯罪は認める」って言ってたくせに。

 18リットル、完璧に入れた時点で、ボクの意識が戻ってきた。

「事情の説明はあとで。ここは逃げてください!」

「わ、わかった」

 ユウキがゆっくり、柏手を叩く。

 時間を再び動かすための一本締めだ。

 瞬間、時間の感覚も戻り、グレイのミライースは消えていた。

 ふっふっふ。元気100%の今のボクに怖いものはない。

 蘇る首都高速のカーチェイス。

 魂が昂る昂る。

 その時ボクは、車とは思えない超・超高速の勢いで、イタリアのパトカー十数台を一気に振り切ったのだった。

 とあるシティホテル前。20歳のイケメンが、ヒロミさんと感動の再会を果たしていた。

 あー、あのイケメンさんが息子さんかぁ。

「まぁ、ビザの関係で、今の時点、親子で帰国ってわけには行かないけどね」

 とテツフミ。

 ヨウコも笑顔で、iPadを抱えている。

「で、今回、途中でやってきたあの2人は?」

「実は、フミカズから頼まれて、私がこっそりLINEで実況してました」とヨウコ。「たまたま、私たち5人のLINEグループもありましたし」

「でも、どうやってテレポートしたのかな?」

「リョウコさんが、一時的にフミカズのミライースに能力を吹き込んだみたいですね。急場だったから、コーイチちゃんほど完璧には仕上がらなかったらしいですが」

「でも、場所まではわからないはず、、、」

「私のiPadのGPSを、「iPhoneを探す」調べてたんですよ。ほら」

「で、ユウキくんが時間を止めて、ガソリンを届けてくれた、と」

 もつべきものは、悪友というか、仲間というか。

 テツフミは、大きなため息をつく。

 僕らのリカバリーストーリーが、またひとつ増えたらしい。

「さあ。コーイチちゃん。出発だ!」

 おう。行こう!

 コーイチちゃんは、また、走る。

 世界をまたに、時に、長崎自動車道を、ノーブレーキで振り切って。

 <完>

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