イタリアでは、日本以上に厳しいロックダウンが続いていた。
公道は無人で、一台の車も走っていない。
途中、検問があったのを、何とかやり過ごして、ボクらはイタリアの街を静かに爆走した。
闇雲に走っても意味がなかった。
思えば、ヒロミさんのご子息がいる街すら、わかっていないのだ。
「最後のメールでは、写真が届いたんですが」
うん。どこかの海岸の様子だね。オミクロン株が流行する直前みたいだね。
表示は、、、2ヶ月前か。
「コウイチちゃん・・・このググれる?」
ああ、なるほど。
一回、テツフミのiPhoneで、画像を取り込んでもらって、ボクのもとに転送。あとは、画像検索でどこの場所で撮られたものか、検索をかけてれば、ストリートビューとの合わせ技で、どこの写真か判明できるだろう。
でも、それをするには、ひとつ問題が、、、。
「なんだい?」
最近、ボク、Siriとアレクサーと仲が悪いだよね。
「・・・うーん。コウイチちゃん、いうのもなんだけど、もう少し友達を大事にした方がいいよ」
あれは友達なんだろうか。
「検索できましたよ」
そうこうしているうちに、ヨウコが手持ちのiPadを使ったらしい。
僕らは、画面を覗き込む。
「アマルフィ海岸?」
3人は、顔を見合わせた。
確か、以前からユウキが旅行したいって言ってた場所じゃないか!
「そこを中心に、しばらく仕事するって書いてあります」
ということは。
この付近で聞き込めば、ヒロミさんの息子さんの足取りがわかるに違いない。
試しに、ヒロミさんの息子さんの名前を検索にかけると、、、。
「あ、活動予定が書いてありますね」
しばらくの検索で、わかったのは。
確実に、息子さんは、この街で足止めをくってしまっているという事実だった。
「つまり」
今は、ホテルに缶詰だろう、と推測できる。
さっきから、黙り込んでいたヒロミさん。
「息子にメール送ってみます」
よろしくです。
「ねぇ。コーイチちゃん。ガソリンは大丈夫?」
ふと、テツフミがボクに声をかけてくれる。
実は、そうなんだ。
そろそろ、給油したいんだけど、、、どこにもないよね、ガソリンスタンド。
「ガソリンがなくなったら?」
多分、単純に走れなくなるんじゃないかなあ?と、つぶやくボク。エコカーな自分に過信してたけど、先日のハコスカと同じ状況になった時、ボクの意識は大丈夫なんだろうか?
「考えたくないな」
その前に、息子さんが見つかればいいんだけど。
コンコン。
警察官だ。
道端に止まっていたボクの窓をノックする音に、ボクらは顔をあげた。
ヒロミさんが、英語で対応する。あとで聞いたら、ヒロミさん。若い頃、青年海外協力隊にいたおかげか、片言の英語が話せるんだとか。
「大丈夫だよ。パスポートは持っているし」
と呑気なテツフミ。
だ、か、ら。今は、イタリアって、コロナの影響でロックダウンじゃなかったけ。街に出たら、処罰とかされるんじゃないの?
「・・あ・・」青ざめるテツフミ。
え? ちょっと。
パニックになって、いきなり、テツフミがアクセルを一気に踏み込んだ。
ブォぉぉん。
派手なマフラー音たてて、急発進するボク。
後ろを向くと、警官が何か叫んでる。
数台のパソコンがサイレンを鳴らしながら、ボクを追う。
さながら、ルパン3世のような逃走劇。さしずめはボクは、クーパーか。
あのー。そろそろ、転移で逃げた方がいいんじゃないかな?
「でも、息子さんが・・・」
ちょうど、その時、ヒロミさんの携帯電話が鳴った。
・・・連絡が取れたみたいだね。
「テツフミさん。いいアイデアがあるんだけど。今のうちに、息子さんとiPadでフェイスタイムできないかしら?」
「でも、私、ガラケーだから」とヒロミさん。
「だから、です。あたしのスケッチ用iPadをつかってください!」
ヨウコが、ヒロミさんにiPadを差し出す。
一方、ボクはカーチェイス。
今回、3人が乗っていて、しかも相手がパトカー数台。
これって。あまりに不利な戦いじゃない?
路地を闇雲に走りながら、わくわく興奮しているボク。
ああ、首都高速の血が騒ぐ。
「コーイチちゃん、そこをなんとか。この際、多少の反則技も許すから」とテツフミ。
つまり、多少の犯罪も認めると。
「うん。このまま捕まったら、職場から懲戒免職されかねない」
OK。悪いようにはしない。
にやり。と思わず、にやけるボク。この際、ボクの顔はどこなんだ、とかの、ボケはなし!
しかし、地元警察を舐めてはいけない。
先回りと、路上封鎖で、ボクの走ることができるルートは完全に、封鎖されていた。
それ以上に、もうボクのガソリンも残っていない。
やばいよ! 転移して日本に帰らないと、帰れなくなるよ。
「つながりました!」
後部座席の2人が、無事、回線を繋いだらしい。
iPadの画面に、ヒロミさんの息子さんの顔が映る。
息子さんとの2人の会話は・・・英語?
テツフミ! もう、ダメだ。いくらボクでも、あと1キロも走れない!
「でも、さすがに、やっと息子さんとの再会なのに、、、頑張れ!」
ボクは、意識を集中する、、、が。
あれ? 力が入らない。
「コーイチちゃんどうした?」
、、、ははは。もう、ガス欠みたい
どんどん、意識が薄れていく。
「コーイチちゃん! おいっ! コーイチちゃん!」
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