テツフミのもとに、一通の年賀状が届いた。
送り手は、ヒロミさんとだけ書かれている。
内容は、ハンドバックを取り戻してくたのことのお礼だった。
ああ、多分、あの時の女性だ。どこで住所がバレたんだろう。
「これ誰? コーイチちゃん、わかる?」
うん。ちょっとひと騒動あってさ。都心で、カーチェイスしたんだ。その時のお礼だよ。
「・・・これまた危ないことを・・・」
大丈夫。その時、運転席は無人だったから。
「都心部って、あっちこっちに隠しカメラあるの知ってる? それに映ったら、一巻の終わりだからね」
・・・済んでしまったことは、気にしない。第一、車には責任ないんで。
「普通、罰せられるのは、持ち主だからね?」
そうだね。それはよかった。
「なんでじゃー!!!」
ほら、内容としては、純粋にお礼だけの手紙みたいだから。
・・・?
「一瞬、凍りついたね。どれ」
見ると、年賀状は、長崎県から送られていた。
あ、ヒロミさん、長崎の人だったんだ。
「会ってお礼が言いたい、って書いてある」
・・・頑張れ、テツフミ。
「なんで丸投げするんだよ」
恋のロマンスが始まるかもー。よかったね。念願の人間の恋人だよっ。
ジト目のテツフミ。
・・・わかってる。丁寧にお断りのお手紙を書くんでしょ?
「もう遅い。日付は、年末に書かれているから、今日には、もう近所に来てるだろうね」
ここまでの行動力は、確かに彼女のフットワークの軽さを物語っている。
「仕方ない。正直に事情を話すことにしよう」
「・・・ということなんです」
お正月もお休みのない、我が地元。
ファミレスの駐車場で、テツフミは、ヒロミさんと感動の初対面。
「あら、この車。本当に無人で走れるんですね」
目を輝かすヒロミさん。
「ちなみに、ボクが乗ると、さらにテレポートできるようになります」
自信満々のテツフミ
「そうなんですか? すごーい」
うん。さっきから、ヒロミさん。何回「すごーい」のセリフを連発するんだろう。
まぁ、いいんだけどさ。この展開って、結局、テツフミの自慢話だ。
「役得だよ。これくらいは認めてよ」
「まさか、海外にも行けるんですか?」とヒロミさん。
「はい、南極制覇したこともあります」
「じゃあ、イタリアにも・・・行ける?」
「はい。簡単です」
「・・・連れて行ってください。海外で演奏活動している息子がいるんです!」
ヒロミさんが熱論する。
うん。いきなりで驚いたけど、新型コロナ流行のせいで、海外にいる息子さんと音信不通なんだとか。確かに、税関とか、完全に出入国をカットしている噂は聞いた。
オミクロン株も怖いけど、母の愛は国境を越えるというか。
ずーん。と、落ち込むテツフミ。
実際、目の前の素敵な女性に、20歳代の息子さんがいた現実に打ちのめされている様子だ。
テツフミ。せっかくだから、協力しようよ。
「でも、、、お正月に一緒に行ってくれる能力者って簡単に見つかると思う?」
ああ、そうか。転移には、条件を揃える必要があったっけ。
ヒロミさんは流石に能力者、、、だとは考えられないので、もう一人、知り合いを探さなくてはいけない。
「あ、俺はダメだけど。妻なら、時間が作れそうだよ」
相談した最後の綱が、フミカズだった。
フミカズは結婚して、能力者でもあるヨウコという奥さんがいる。
「条件として、行った先で、少し絵を描かせてあげてくれないかな? スケッチに出かけようと思っていたテーマパークが、今回のコロナの流行で閉鎖になってしまってさ」
なるほど。
ヨウコは、見たものを一瞬にして記憶し、絵として描画する能力を持っている。
その彼女の力を借りて、イタリアへ行こうというのだ。
・・・いいんじゃない? 対価として、それくらいの寄り道は許してもさ。
「そうだね。コーイチちゃんがいうんなら。じゃあ」
テツフミ、ヒロミ、ヨウコとともに、夕暮れ時にボクは高速道路を助走した。
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