3.いざ、イタリアへ 

 テツフミのもとに、一通の年賀状が届いた。

 送り手は、ヒロミさんとだけ書かれている。

 内容は、ハンドバックを取り戻してくたのことのお礼だった。

 ああ、多分、あの時の女性だ。どこで住所がバレたんだろう。

「これ誰? コーイチちゃん、わかる?」

 うん。ちょっとひと騒動あってさ。都心で、カーチェイスしたんだ。その時のお礼だよ。

「・・・これまた危ないことを・・・」

 大丈夫。その時、運転席は無人だったから。

「都心部って、あっちこっちに隠しカメラあるの知ってる? それに映ったら、一巻の終わりだからね」

 ・・・済んでしまったことは、気にしない。第一、車には責任ないんで。

「普通、罰せられるのは、持ち主だからね?」

 そうだね。それはよかった。

「なんでじゃー!!!」

 ほら、内容としては、純粋にお礼だけの手紙みたいだから。

 ・・・?

「一瞬、凍りついたね。どれ」

 見ると、年賀状は、長崎県から送られていた。

 あ、ヒロミさん、長崎の人だったんだ。

「会ってお礼が言いたい、って書いてある」

 ・・・頑張れ、テツフミ。

「なんで丸投げするんだよ」

 恋のロマンスが始まるかもー。よかったね。念願の人間の恋人だよっ。

 ジト目のテツフミ。

 ・・・わかってる。丁寧にお断りのお手紙を書くんでしょ?

「もう遅い。日付は、年末に書かれているから、今日には、もう近所に来てるだろうね」

 ここまでの行動力は、確かに彼女のフットワークの軽さを物語っている。

「仕方ない。正直に事情を話すことにしよう」

「・・・ということなんです」

 お正月もお休みのない、我が地元。

 ファミレスの駐車場で、テツフミは、ヒロミさんと感動の初対面。

「あら、この車。本当に無人で走れるんですね」

 目を輝かすヒロミさん。

「ちなみに、ボクが乗ると、さらにテレポートできるようになります」

 自信満々のテツフミ

「そうなんですか? すごーい」

 うん。さっきから、ヒロミさん。何回「すごーい」のセリフを連発するんだろう。

 まぁ、いいんだけどさ。この展開って、結局、テツフミの自慢話だ。

「役得だよ。これくらいは認めてよ」

「まさか、海外にも行けるんですか?」とヒロミさん。

「はい、南極制覇したこともあります」

「じゃあ、イタリアにも・・・行ける?」

「はい。簡単です」

「・・・連れて行ってください。海外で演奏活動している息子がいるんです!」

 ヒロミさんが熱論する。

 うん。いきなりで驚いたけど、新型コロナ流行のせいで、海外にいる息子さんと音信不通なんだとか。確かに、税関とか、完全に出入国をカットしている噂は聞いた。

 オミクロン株も怖いけど、母の愛は国境を越えるというか。

 ずーん。と、落ち込むテツフミ。

 実際、目の前の素敵な女性に、20歳代の息子さんがいた現実に打ちのめされている様子だ。

 テツフミ。せっかくだから、協力しようよ。

「でも、、、お正月に一緒に行ってくれる能力者って簡単に見つかると思う?」

 ああ、そうか。転移には、条件を揃える必要があったっけ。

 ヒロミさんは流石に能力者、、、だとは考えられないので、もう一人、知り合いを探さなくてはいけない。

「あ、俺はダメだけど。妻なら、時間が作れそうだよ」

 相談した最後の綱が、フミカズだった。

 フミカズは結婚して、能力者でもあるヨウコという奥さんがいる。

「条件として、行った先で、少し絵を描かせてあげてくれないかな? スケッチに出かけようと思っていたテーマパークが、今回のコロナの流行で閉鎖になってしまってさ」

 なるほど。

 ヨウコは、見たものを一瞬にして記憶し、絵として描画する能力を持っている。

 その彼女の力を借りて、イタリアへ行こうというのだ。

 ・・・いいんじゃない? 対価として、それくらいの寄り道は許してもさ。

「そうだね。コーイチちゃんがいうんなら。じゃあ」

 テツフミ、ヒロミ、ヨウコとともに、夕暮れ時にボクは高速道路を助走した。

コメント

タイトルとURLをコピーしました