1.テツフミとリョウコの神隠し

 長崎大学保健福祉学科からの帰り道。ボクの意識は、ただの車から、ひとりの少女へと変貌を遂げた。その後の顛末。

 テツフミ、リョウコ、、、帰り遅いなぁ。と思わずぼやく。

 2人は、とある町の障害者施設の職員である。職員の研修会があって、それぞれ、職場は違うのだけど、家がご近所ということで、テツフミの車に乗り合わせることになった。

 研修会は全部で9回。今日、2回目が終わったところだ。

 始まったのが10月だったから、自然、季節は秋から冬へ。徐々に寒さはましていく。

 ボクは駐車場で2人を待っていた。

 ボクは寒さを感じない。とはいえ、人間である2人にはさぞかし堪えることだろう。

 エンジンかかってないけど、気持ちだけ車体を揺らして、シートを帯電させておく。

 あ、2人が見えた。研修会の他のスタッフと一緒に帰ってきた。

 テツフミ、遅かったな。

「ごめん、コーイチちゃん。待たせたね。あ、リョウコさんも段差あるから気をつけて」

 テツフミがボクのエンジンをかけながら、エアコンのスイッチを押す。

「ありがとうございますっ。よろしくお願いしますっ」

 リョウコが、軽快に助手席に飛び乗った。

 一見、10代前半の彼女だが、、、見かけに騙されてはいけないコトをボクは知っている。  

 そのクリエイティブ能力は、なんでもない物体や動物に魂と能力を吹き込んでしまう。ただのアヒルに神を宿らせたことも。彼女のことを人は呼ぶ。「スマホ誤変換のビックマザー」と。

 一方で、我らがテツフミも負けてはいない。その不幸体質は、あらゆる世界の災厄を一手に引き寄せる。今回の研修会でも、講師の先生から徹底的にマークされて、ことあるごとに墜落。今年は厄年で、彼の能力のポテンシャルが人生でもっとも上がる時期。またの名を「無茶ぶられ世界の貴公子(プリンス)」

「コーイチちゃん行こう。早く帰らないと日が暮れる」

 アクセルが踏み込まれ、急発進で、ボクは2人を乗せて、走り出すことに。

 愚痴の代わりに、エアコンから冷房を吐き出しながら、駐車場を出て、公道に出る。

 外は、すっかり日が傾いている。もうそろそろ夕暮れ。

 これだと、高速道路に入る頃に、夕陽が見えるかなぁ。

 さりげなく、カーオーディオから、リョウコが好きなボーカロイドのチャンネルを流す。

 ボクは知っている。

 このチャンネルは、研修会の準備以上に念入りに選ばれたということを。

 ボクは、テツフミとリョウコの会話の中で生まれた。

 研修会初日。

 初めて、2人きりで車に乗って、リョウコを送っている際に、余計な空ぶかしをしてしまった軽自動車。それに「コーイチちゃん」と名前が付けられて、ボクの意識が生まれたんだ。

 リョウコは、ありったけの偏った妄想力で、ボクに性格を与えていく。

 うん。それが、あまりに独創的だったので、ボクは非常識な変態・・・もとい車になってしまった。

 さて、長崎バイパスを通過して、多良見ICに入る。

 テツフミ渾身のチャンネルも、リョウコに力を与えることはできず、彼女は居眠りの中に落ちてしまった。

「せいいっぱい、居眠り防止の曲を選んだんだけどなぁ・・・」

 とテツフミ。

 その健気な気遣いがきっといつか実を結ぶ、、、といいと思う。

 こっそり、ボクはテツフミの好きなポップスのチャンネルに切り替えた。

 運転手が寝たら、危ないぜ。

 さあ、夕陽が綺麗なポイントだ。

「そうだな。コーイチちゃん、ありがとう」

 そういえば、昔、ナイトライダーという高性能のコンピューターを搭載した海外のスーパーカーの番組が流行したことがあったんだ。テツフミ覚えてる?

「ああ、懐かしいね。俺もその車に憧れたんだ。コーイチちゃんは、その車に似ているかもね」

 そうそう。無人なのに自走したりするんだ。

「そういえば、コーイチちゃんは、免許持っているの?」

 持ってないよ。だって、ボクは車だぞ。

「じゃあ、俺が運転しないと公道は走れない?」

 うーん。それは、どうだろう・・。そもそも、車は一人で自走できるように設計されていないからな。

 ちょうど、その時、眠り姫が目を覚ました。

「寒いですー。南極にいるみたいですぅ。ここどこなんですかぁ?」

 寝惚ける姫。

 テツフミは苦笑いする。

「そんなわけないでしょ。まだ、諫早だと、、、あれ?」

 うん。夕陽のようすは変わらない。

 しかし、それ以外の風景は違っていた。

 あまりに予兆のない、突然のことだった。

 一面の氷雪と、あれ? 向こうに見えるのは、ペンギンの群れ?あれは、、、昭和基地?

「、、、、ここどこ?」

「やっぱりー。テツフミさん、いたいけな女性をどこに連れ込んでいるんですかぁ」

 そんな問題じゃなくて、どうして高速道路を走っていたボクらが、南極にいるんだって事実に動揺しろよ。

「ああ、不幸だ。また明日、『あの男』にからかわれる・・・」

 テツフミも!今は、そんな問題じゃないだろ。

 ああ、この場で常識があるのが、非常識な存在であるボクだけってのも、頭が痛い。

 ん?そういえば、、ボクの頭はどこにあるんだろう。

「どうやって帰るんですか?まさか、ここで私たち二人、失○園をするんですかぁ?」

 とリョウコ。

 おい! もしそうなったら、ボクは2人を置いていく。

「ああ、不幸だ」

 テツフミも正気に帰れ~!

 しかたねえな。

 南極走るのに、流石に免許はいらないだろうから、運転手そっちのけで走ってみよう。

 うん。よいしょ。

 やってみれば簡単だ。これぞ、まさにリカバリーの原点。

 一度、運転手なしの走り方を覚えてしまえば、しめたもの。

 とりあえず、吹雪く前に、どこか寒さを凌げて、地面が安定したところを見つけよう。

 日本仕様のボクには、零下の世界を走る準備はできていない。

 できる限り、2人が寒さを凌げるようにヒーターを全開に入れる程度の配慮はする。

「あれみてください。オーロラですよね。綺麗ですー」

「ああ、そうだね。すごく不幸だ」

 自走するボクのシートで、平和でマイペースに大混乱中の2人。

 一時間後。ボクらは、南極点に辿り着いた。

「南極制覇!」

 ・・・。

 違うだろ! こっちはマジなのに、どうしてこーなるんだよ?!

 アメリカとかロシアやらの国旗が突き刺さる小山を見ながら、ボクは頭をかかえた。

 いや、だから、ボクの頭はどこなんだ。

「そろそろ、テツフミ。気が済んだら、おうちに帰りましょう。明日の仕事に響きます」

「そうだね。・・・不幸だ」

 で、お二人さん。どうやって、ボクら、日本に帰るんデスか?

 

 やろうと思えば、帰れるんだな。ボクは、今回、それを学んだと思う。

 走って、30分後、無事、僕らは高速道路に戻っていた。

 ETCレーンも無事通過できたんで、僕らは少しだけ神隠しにあったんだろうと、いう平和な結論に落ち着いた。

「遅くなってごめんね。変なところに連れていっちゃって」

「なかなか、エキサイティングな体験でしたー。どうせなら今度は、カナダに行きたいですー」

 不吉なことを言いながら、リョウコが、テツフミに向けて笑顔を向ける。

「今度は、大使館でパスポート取得かぁ・・・ああ、不幸だ」

コメント

  1. 杉本 哲文 より:

    テストコメントです。

    そしてリアルテツフミは、そないな紳士ちゃいますえ〜😅

     スギモト・モッサリーノ・ファン・ポンテッツァ・ド・ニェステノール・R・テツフミより

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