自転車勝負が始まった。
ユウキとコーロギさんがキリのいいスタートダッシュをして、コノハナサクヤヒメを追い詰める。
「やるわねっ」
さすが神様。簡単には、2人に捕まらない。キリのいいタイミングで、脇道に逸れる。
コーロギさんがすかさずペダルを漕ぐ速度を上げた。速度が軽く時速50キロは上がったんじゃないだろうか?
「え、待って、それはない!早いよ、早いよコーロギさん‼️」
焦るユウキ。必死の叫び。どうやら、日頃の運動不足がたたったらしい。
「頑張れ、ユウくん。君の犠牲は無駄にしない」
チーン。その様子に、手を合わせるテツフミとフミカズ。日頃、さんざん犠牲にあっている2人なので、たまに外れると心地いい。
「それにさ」
フミカズが即座に検索する。
「大村市内のサイクリングロードって、イベントのおかげで市内各地に入り組んでるから、ナビゲーションが必要なんだよな」
フミカズがヒメを追い詰める先の座標を2人に送る。
これなら、神様相手でも対等に戦える。つまり、勝機が残っている。
「日頃、鍛えてない我らには応えるっすよ」
うなづきあう運動不足の中年2人。
いや、2人とも、コーロギさんは君たちより年上なのわかってる?
その時、グループLINEの呼び鈴が鳴り響いた。
「ん?リョウコさんとヨウコさん⁉️」
誘拐されて初めてのLINEメッセージ。
見れば、ニニギノおじさんに頼み込んで高天原にWi-Fi回線を引いてもらったとのこと。
『こっちは美味しいお酒でおじさんと盛り上がってるから、心配しないでヒメ探し頑張ってねー』
「、、、なんか、俺たちより楽しそうじゃね、、、?」
目が点になるテツフミとフミカズ。「ということは、、、。」
2人の顔が希望で俄かに華やいだ。
一瞬、空から閃光が走っただろうか。
瞬く間に、コーロギさんとユウキの自転車がその場から、いなくなったのだ。
、、、消えた、、、いや、多分、自転車自身が自らの意志で姿を消したのだ。
きっとこの遠距離で、ヨウコとリョウコが力を合わせて自転車に能力を与えたに違いない。対象を透明になる能力を。
「ずるいっそれ!」
見ていたコノハナサクヤヒメは大慌て。
ペダルを漕ぐスピードがあがり、闇雲に大村市内を走り回る。
しかし、さすがは神様。それでも簡単には捕まらない。
3時間後。テツフミとフミカズは、モバイルのGoogleマップを覗き込んだ。
さすがに、神様も少しは疲れが見えた頃だろうか。逃げるペースも落ちてきた。ここらで一気に勝負に出たいところだ。
コーロギさんとユウキにLINEを飛ばす。
それを合図に、待ち伏せしていたらしいユウキの声が、あたりに響いた。
「時間よ、、、止まれ!」
一気に周囲が硬直し、自転車の透明化能力も解除。
まさに、これがユウキの奥の手。「ユウキワールド」
そもそも命名したのは、浦河べてるの舎の向井谷地さん。時は去る西南学院での講演。それ以来、ユウキ自身もこの能力のことをこう呼ぶようになってしまった。
「うぬぬ、、、まけるものかぁ・・・」
これまた止まっている自転車の上で、ユウキの力に抗って、なんとか言葉を発するコノハナサクヤヒメ。その隙に、自転車から降りたコーロギさんがヒメの肩にタッチした。
ユウキが能力を解除する。
時間が再びうごし出した時、コノハナサクヤヒメの自転車はすごい勢いまま、道端に転がった。
再び、2人が姿を現した時、すでに勝負はついていた。
「チェックメイト! 、、、これで勝負は決まりですね!」
コメント