第5話 コノハナサクヤヒメを捕まえろ!

一方で下界。悩むことなく、ボクたちは颯爽と動き出していた。

明日は研修会。準備は刻一刻とと迫っている。1分たりとも、時間は無駄にできない。

「行動しましょう。大丈夫、まだ間に合います」

ゴロウ先生に話すと同時に、ゼミのみなさんによる取りまとめ作業が始まった。

ホテルの一室を事務室に借り切って、思い思いのデジタル端末で、調査を開始する。

たちまちのうちに、ニニギノミコトとコノハナサクヤヒメの情報が、一行のグループラインに上がっていく。うん。まさか、こんな時に彼らのバックアップが必要になるとは思わなかった。

ボクたちことコーイチちゃんとみんなは、その情報をもとに、ヒメにまつわる神社を南からひとつひとつ、瞬間移動を使って潰していく。明日に向けての原稿の準備を着々と進めながら。

「ヒントは桜です。ヒメは神様ですから、必ず周囲の桜を見ていけば、彼女がどこに行ったかわかるはず。そもそも、桜はヒメの美しさにあやかって咲いた花ですから」

ゴロウ先生が、調査結果を冷静に分析していく。

「桜の開花前線を辿るように、南から探せば、いずれ見つかるはずです」

鹿児島県の新田神社から始まって、宮崎県の木花神社・高千穂神社、愛媛県今治市の大山祇神社、三重県伊勢市の子安神社、京都府宇治市の縣神社、伊勢神宮皇大神宮(内宮)所管社。

そして、ついに最北端の富士山の浅間神社へと辿り着いた。

4人が期待を持って、神社へおりる。

「ほらやはり ・・・ここも桜が狂い咲いている」

今は9月。

先日、非常識な寒さがあったものだから、すっかり桜の花が満開に咲き乱れている。

当然、ここにヒメが来ている可能性は高い。

「いらっしゃいませんよ。今は」

尋ねると、巫女さんがスマイリーに答えてくれる。「ヒメは今、ゆるキャラめぐりの旅に出ていらっしゃいます」

普通に売店の巫女さんが、気軽に神様の所在がわかっている時点で、なんだろう。自分の常識が疑われるような・・・。いや、助かったんだけどさ。

それにしても、ゆるキャラ?

「おむらんちゃんとかのシール販売が、今日解禁なんだそうです」

「・・・え?」

ちなみに、おむらんちゃんとは。長崎県大村市のゆるキャラ。

言うまでもなく、大村市は一行の故郷でもある。

「・・・まさか、旅がふりだしにもどるなんて」

試しにシールを販売している観光案内所に来てみると、ひとり、見た目20歳の若い女性が、限定発売の子供の群れに紛れていた。

「念の為聞きますけど、コノハナサクヤヒメ・・・ですか?」

その女性の肩をそっと叩くテツフミ。

「何よ!?おむらんちゃんシールは限定発売なのよ!邪魔しないで!」

「・・・はい」

テツフミがこっそり、ダッシュボードの中から取りだすシール台紙。先日、ドラレコをデコった時にはったシールの残骸だ。

「市民には無料で配布されたんです。一個しか使ってないんで、よかったら残り全部どうぞ」

「いかにも、私がコノハナサクヤヒメですわ」

ヒメが満面の笑顔で、一行の前にやってきた。

「一緒にニニギノおじさんのもとに帰りましょう。でないと、人質にとられた私たちの仲間を解放されません」

「いやよ。子育てなんて、もうたくさん。そもそも、火事の家屋の中で3人出産とかありえなくない?!」

すげー。神話の中のそのエピソードって、本当だったんだ。

「まいったなー。せめて協力してくださいよ。あなたの家出のせいで、困っているんですから」

粘る一行。せっかく見つけたんだ。ここで引き下がるわけにはいかない。

「勝負しなさい」

コノハナサクヤヒメがびしっと、指を刺す。「幸い、この地には見覚えのある道路が走っているようだから、自転車で私を捕まえてみせなさい!」

「・・・」

無言で、コーロギさんを突き出すボクたち。

一応、この場合、「自転車で勝負」なんで、ボクは該当しないからだ。

大丈夫、コーロギさんの自転車速度は時速200キロを可能にする。

「あのー、テツフミさん。今、私、自転車持ってきてないんですけど、、、」

と、ぼそぼそ話すコーロギさん。

「借りればいいじゃない。私が寄った野岳湖とやらで、貸し出してわよ」

かなりまずい。相当、気まずい。野岳湖で貸し出してるのは、2人乗りのレジャー用自転車。つまり、もうひとり乗り手が必要だ。

「こんな時は、テツフミさんかフミカズさんですよね」

「いやー、代表に花持たせるのが部下の責務です」

醜い譲り合いを展開する3人。

「考えてもみてください。いざという時、コーイチちゃんを運転できるひとは確保しなくちゃですよね?」

それを言われると、ユウキの出る幕はない。渋々、コーロギさんの後ろに乗る乗り手がユウキに決定することになった。

「よーい、どん!」

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