今年の9月は、桜と嵐が同時に来訪した月だった。
そんなぐずついた天気の中、九州自動車道長崎大村線を駆け抜ける一台の車がいた。
それが、ボクことコーイチちゃん。
ツンデレでヤンデレでヤンキーで硬派でドランカーな、意識を持った軽自動車。ちなみにボクっ子(♀)。
運転手は、テツフミ。
ちなみに、2人以上の超能力者が乗り合わせることで、離れた場所へ瞬間移動が可能になる。多少、素性の変わったクルマである。
その次のSSで給油だよっ。でないと、ガス欠起こしちゃうゾ💚
「りょーかいっ!」
ボクの声に、軽快にハンドルを切るテツフミ。
前回のイタリアでの反省を活かして、新規にAIとドラレコとカーナビを購入し、おむらんちゃんシールでデコったボクに、もはや死角などありようはずもない。ちなみに決して、どれも燃費対策とは関係ない、と突っ込んではいけない。
助手席には、顔がどこか小田和正を思わせる渋さ一番のナイスミドル。
コーロギさん。
実は、彼が今回の主人公である。
「やっぱり、車はらくですねー」
「そりゃあ、そーですよ。この残暑の中、宮崎から自転車旅行は無謀ですって」
テツフミが声をかける。
途中で長崎地方には台風が直撃したから、さらに足止めもくっただろうし。
「いや、すいません。これで、テツフミさんに講演を引き受けてもらえなかったら、上司に合わせる顔がありませんでした」
ボランティアグループ・ピアサポートみなとに、コーロギさんからのメールが届いたのは1ヶ月前のことだった。
メールを受け取ったフミカズが遅れて気づき、代表のユウキに知らせたのが2週間前。
そこから、さらにコロナの問題で、みんなの通信が途絶えていて、結局メンバーへの連絡がついたのが3日前。
ああ、悲しきは「ほうれんそう」のスピードダウン。
機動力のあるテツフミが急遽、立ち上がって、講演を引き受けることで無事、問題は落ち着いた。
まさしく、「無茶振り」。
しかし、テツフミはその数ある無茶振りに、免疫を持つ特殊な能力の持ち主でもある。
途中で2、3回で一旦トイレ休憩を取り、コーヒーブレイクをとった後、無事夕暮れ時。東九州自動車道へ入ったボクたち一行。
「?」
テツフミが異常に気がついた。
それは、ボクの後ろを長崎からピッタリ追いかけてくる6台の原チャリ集団。
「コーロギさん・・・。バイク趣味のお知り合い、いらっしゃいます?」
恐る恐る尋ねるテツフミ。
「そういえば、途中でビバークしたとき、お世話になった人たちがいましたね」
ナイスミドルの口調が、やけにハキハキしている。
ちなみに、ビバーグとはテントを張ったキャンプのこと。
「高速道路で一泊したんですか?」
「だから、台風で」
「そーじゃなくて」
テツフミが頭を振る。「どうやって、自転車で高速道路に入ったんですか?」
「堂々と、ETCレーンから入りましたよ」
「・・・」
おそらく、台風で通行止めだったから、高速道路の警備が甘かったんだ。
「大丈夫。私の自転車は、時速200kmの逃走をも可能にします」
「ああ、なるほど」
テツフミがうなづく。いや、そこで納得するのは普通じゃないよ。
待て? もしかして。ーーねぇねぇ、テツフミ。
「そうだね。コーイチちゃん。試してみよう」
テツフミがアクセルを全開にした、次の瞬間。
ボクたちは宮崎についていた。
ああ、やっぱり。
「何が起こったんですか? 一瞬で景色で変わりましたけど」
「瞬間移動ですよ」
きらっ、と前歯を光らせるテツフミ。
つまり。案の定。
コーロギさんも能力者だった。
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